わたしたち
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2017.02.19
「久しぶりだね、よろしくお願いします」
日曜日の午後3時、横浜・日本大通り駅で待ち合わせ。
春のような暖かい陽射しの中、愛実さんと近くのカフェに向かいました。
小平愛実さん、群馬県出身。明治学院大学の社会福祉学科を卒業。
職業は、CADオペレーター。現在は時期ごとに建設現場に通い、施工図を描く仕事をしている。
兄弟は弟が二人。「小さい頃の夢は、お母さんになりたかった。幼稚園の頃の私は弱虫でね。お母さんにひとしきり幼稚園での出来事を話したあと『だから、まぁちゃん弱っちぃんさぁ』ってよく泣いてたんだって」
ふんわりと、可憐な雰囲気のある愛実さん。
愛実さんと出会ったのは私がまだ大学生の頃。横浜を中心としたボランティアの集まりに、彼女は社会人として参加していた。
ゆっくり話したこともなければ、二人で会うのも今日が初めて。
愛実さんを目の前に、正直私は緊張していた。
「楓ちゃんさぁ、私のこときっとすごい感じで見てるでしょ」
はい、天使のように見えてます、と伝えると、やっぱりと笑った。
「私さ、結構破天荒なんだよ」
破天荒なまなみさん?ぜひ知りたい!
コロコロと笑ったあと、まなみさんが言葉を出した。
「おっパブで働いてたのよ、私。大学生の頃に、一年間」
おっパブ?名前は聞いたことはあるけれど、働いていた方の話を聞くのははじめて。思わず前のめりになる。
「私ずっと児童相談所で働く人になりたかったんだ。
そういう所に繋がる女の子の中には、夜の仕事に流れる子がいたりもする。でも、そのとき私にはそこで働く子たちの気持ちがわからなかった。だからね、実際に働いてみればいいんだ、って思って」
そこで見た世界、それは入ってみたからこそ見えたもの。
「お店にくる男性は様々で、女性をまっすぐに求めに来る人もいれば、日頃の寂しさを埋めたくて来店する人もいた。ほとんどは後者だったの。みんな何らかの孤独を感じていて。
自分の言葉や反応で、お客さんがその時間を満たされて帰る。そんなお仕事だった」
「控え室に行ったらね、メイクもヘアもバッチリなギャルみたいな子がね、介護の参考書を開いててさ。私も福祉学部だったから、福祉に興味あるの?って聞いたら、うん、私昔からおじいちゃんおばあちゃんが好きなんだーって。
そこの控え室にね、お店の子あてにメッセージが貼ってあったの。短期で一気に稼いで、お店を巣立ってください。私たちはあなたたちを応援します、みたいな言葉だった」
兄弟の学費を払うために働いている子もいた。たまたま良心的なお店だったのかもしれない。見た世界は一部かもしれない。
それでも、入らないとわからないことだった。
「私、小さいとき性暴力をうけたことがあったの。それからずっと男の人がこわくて。でも、そこで働いた1年間の経験の中でチャラになったかも。男性を受け止められるようになった。
うん、私にとってはすごく大切な経験だった」
まなみさんは、吸い込まれそうなほど綺麗な目で、まっすぐに見つめてくれる。その目の中に、柔らかいけど曲がらない強さを感じていた。
でも、福祉学科を卒業してなぜ建設業界に入ったのでしょうか。
「私ね、就職活動のとき本当にやりたいことがなかったの。
というか、本当にやりたいことに挑戦して折れるのが怖かった。だから、好きなことは初めから選択肢から外してた。それで、どこにいきたいかなんてわからなくて、でも就職活動はしなくちゃいけなくて。お母さんに電話で不安を伝えたらね、こう言われたの。
『あなたが大したことないってことはバレバレで、みんな知ってるわよ。それでもみんな、わかった上で側にいてくれてるんでしょ』って」
すごい、そう思わず笑ったら愛実さんも声をあげて笑った。
「でもさ、自分に置きかえたらそうだよね。
友達もさ、パーフェクトヒューマンみたいな人だから一緒にいるわけじゃない。いいとこも、ダメなとこも知ったうえで、それも含めてその人が好きだから、一緒にいるもんね」
「そっか、こんな私でもみんなは認めてくれてるんだ。そう思うと、じゃぁありのままの自分でもいいかって思えてね。そこから就職活動に向かうことができたの。だから、ご縁をくれた会社にしようって思って、未経験だけど建設業界に入ったんだ」
愛実さんは、未経験で飛び込んだ職場に『育ててもらっている』と表現した。
それがすごく素敵で、そう捉える愛実さんの明るさが羨ましいなと思った。
夕陽に包まれた大桟橋で、愛実さんが一冊の本を取り出しページを開く。
「私ね、この詩が好きなの」
茨木のり子さんの『汲む』という詩。優しい言葉で綴られたその詩は、大人になったって恥ずかしくっていいんだ、という内容だった。
先ほど聞いたお母さんの話と重ね合わせて言葉を読む。
私も自分に自信がない。人の目だって気になる。うまくいかないことだらけで、何でいつまでもこうなんだろう、とへこむ日だってある。
でも、それだって良いらしい。大人になっても、そんな自分で良いらしい。
見渡せばちゃんと側に、ダメな自分も認めてくれている人がいるから。
愛実さんは文章を読むのが好きという。
すすめてくれる詩やコラムはどれも優しくて、だから彼女もやっぱり優しい人なんだろうな、と思った。優しい言葉にもっと触れたら、彼女みたいになれるのかな。なんだかもっと、本を読みたくなった。
「私ずっと、自分に自信がなかった。背は低いし、童顔で。幼いイメージをもたれたり、ナメられたり。イメージで決めつけられるのが嫌だった。
でも、だからこそ人を見た目で判断しないようにしようと思っている」
愛しさを繋ぐ。
良いところもダメなところも、全部含めてその人らしさ。そんな風に全てを包みながら、愛実さんはこれからも沢山の人を優しく受け入れていくんだろうなと思いました。
愛実さんに贈った花は、レースフラワー。花言葉は『可憐な心』。
今日は、私も愛実さんに優しく包んでもらったような気がした。
取材が終わってからもずっとふわふわとした余韻だけがのこっている、そんな1日でした。
愛実さんの出会った優しい人たちもみんな、幸せになれますように。