

湯田 舞さん、28歳。
NPO法人Social Salon代表。
2017年7月。
暑い日差しが照りつける東京で、私たちはこの日100夢の取材を通して初めて出会った。
そして、この2週間後に、彼女はアメリカへ飛び発った。

ご友人が載った100夢を読んでくれて、今回繋がった舞さん。
待ち合わせ場所に現れたのは、目力が強くてオーラのある、素敵な雰囲気の女性でした。
先日、5年勤めた会社を辞め、自身が個人的に行なっていた活動をNPO法人化。
そして今現在は、半年間の渡米に向けて準備をしているそう。
自己紹介を聞いただけで、彼女のエネルギッシュさが伝わる。
「自分で見た世界を、子どもたちに伝えられる先生になりたいって思っていて」
舞さんは教育心理学部出身。
卒業時に中高社会科の教員免許を取得し、
大学卒業後の5年間は商社で働いた。
一般企業への就職を選択したのは、
「子どもたちに社会のことを伝える前に、自分が社会のことを知らなくては」
という想いから。
理想の先生は、サウンドオブミュージッックの“マリア先生”だそう。
「歌って踊れる社会科の先生って面白くないですか!?」
そう彼女が話すように、これから予定している渡米も、
半年間世界を周りながらミュージカル公演を行うものだそう。
巡るのはヨーロッパ16都市。
世界中から集まった100人の参加者と、各都市でホームステイをしながら旅するそう。
歌って踊れる、社会科教師。
こんなに興味が惹かれるフレーズはあるだろうか。
出会ったばかりの彼女のおもしろさに、ぐいぐい惹きこまれていく。

舞さんが代表を務めるNPO法人Social Salonは、毎月テーマごとに2名のゲストを招き、社会問題について語れるイベントを都内で開催している。
ゲストを2名呼ぶのは、多角的な目線で話を広げられるように。
これまで扱ったテーマは、国防・安全保障、沖縄、LGBT、障害、など様々だ。
なぜ舞さんは、働きながら『語りの場』をつくってきたのだろうか。
「キッカケは、大学生の時に訪れたカンボジアでの出来事が大きいかもしれないです」
大学2年生の時、舞さんはカンボジアでのスタディーツアーに参加した。
現地では高校生と交流する機会が設けられ、舞さんが交流した男子高校生はとても流暢に英語と日本語を話していた。
国の公用語はクメール語のはずだ。
舞さんは思わず尋ねた。
「何故そんなに英語が上手なの?」
その時、男の子から返ってきたのは一言。
「だってここでは、勉強しないと仕事がないから」

舞さんは、その時の印象をこう話してくれた。
「うわー、自分なに聞いたんやろ、って。
それから、自分は大学行っておきながら、全然学んでないやんって思って。
カンボジアの子たちが自分の国の社会問題について話してくれたけど、私は日本の事がわからなくて話せなかった。何でも学べる環境にいながら、何も知ろうとしてこなかった。これじゃあ、あかんなって感じて…」
「例えば、私が生まれ育った京都では、今でも部落問題があります。でも、それを知ったのは自分が高校生になってから。
恥ずかしいけど、私は自分が暮らしている地域の社会問題も知らず、考える機会もなかった」
カフェで話をするように、社会問題をもっと日常で語れる場をつくりたい。
舞さんはそんな想いから、2016年に他年代での語りの場づくりをスタートした。
最初は、舞さんに会うために顔を出してくれた友人知人の参加がメインだったそう。
ところが、活動を続けていく中で参加者の顔ぶれが変化していきます。舞さんの知らない人たちが、テーマに惹かれて集まるようになりました。初対面の参加者同士で活発に意見が交わされるように。同時に、出会いが繋がっていくようになりました。
「ソーシャルサロンが湯田舞をこえた!って思いました。
これはもう仲間をつくらなあかんなって思って、仲間を集めてNPO法人化しました。メンバーには『湯田舞巻き込まれ組』っていわれているんですけどね(笑)」
サロン開催の中で、舞さんがやりがいを感じるのはどんな時でしょうか。
「やりがい、たくさんありますね。
参加者から“新たな発見をもらえた”って言ってもらえたり、ゲストからも“話す機会をもらえてよかった”って言ってもらえたり。ゲストと参加者の繋がりが生まれたり…色々です。
仕事をしながらの企画運営は“何でこんなことしてるんやろ?”ってたまに疲れちゃうこともあるんですけど、イベントをしたら、やっぱりええなあって思いますね」
思いのままに走ってきた1年間。
これからは仲間との連鎖で、場を広げていけることを楽しみにしている。

「私は、わからないことは悪いことじゃないと思うんです。
わからない中でも、“これってどうなんだろう?”と考えることが大切なんじゃないかと思うんです」
舞さんは、様々な人の人生について話を聞く中で、「傍観者でいることは、何も考えていないのと同じなのでは?」と考えるようになったそう。
だからこそ今は『わからないこと』に踏み込み、学び、感じたことを言葉で共有して、自分の中に落とし込んでいるようです。

舞さんはとてもパワフルだ。
言葉から、表情から、エネルギーが満ち溢れている。そんな風に感じる舞さんですが、昔は自分に自信がなかったそう。
「幼い頃から、周りから『変わっている』といわれることが多くて。
いじめられたこともあったし、自分が友達を傷つけてしまったこともありました。
でも、どちらも経験したことで感じたことが沢山あって。
良くも悪くも人が生きられる動機って、
人でしかないって感じたんです」
社会には、いろんな想いをもった、いろんな境遇の人がいる。しかし、知らないとそれは“他人事”でしかない。
だからこそ舞さんは出会い、語れる場作りを大切にしている。
対話を通して一歩踏み込めば、明日からは”他人事”ではなくなるかもしれない。
「“私は人と違う”って悩んだこともあったけど、よく考えたら体の一ヶ所とっても、全く同じ人なんて本当はいない。だから、個性があることが当たり前で、それぞれ良いんですよね。
なんというか、繋がりをうまく感じられないことで苦しんでいる人が多いように感じるので、日常の中で『自分が何かによって生かされている』という繋がりを感じられたら、もっと生きやすい社会になっていくんじゃないかと思うんです。
ソーシャルサロンも、誰かのそういう居場所になれたらいいなと思います」

舞さんの話を聞きながら思い返していたのは、私が大好きだった高校の先生の事。
まさに社会科の先生で、みんなに愛されるユニークな先生だった。
長期休みになると世界を旅して、休み明けには世界で目にしてきたことを話してくれる。
教科書に載っている場所はどんな所だったか、今どうなっているのか。
先生の授業を通せば世界と繋がることができる、歩く地球儀みたいな先生だった。
小さな田舎の学校から世界を想像する体験は、高校生の私にとって刺激的で、想像するには楽しすぎるものだった。
先生と話す度に、もっともっと
知らない世界を知りたいと思った。
その後私は、
東京の大学に進学して国際協力を学んだ。
先生と出会ったからこそ世界に興味を抱くようになり、先生と出会ったからこそ、いろんな人と出会う楽しさに気付けた。
舞さんは、どんな先生になるのだろうか。
舞さんと出会った学生は、どんな人生を送っていくのだろうか。
想像して少しワクワクする。
今回、舞さんに贈った花は“ケイトウ”。
鮮やかなピンク色が眩しい一輪だ。
贈る花ことばは“個性”。
一人一人の個性の豊かさと、その大切さを教えてくれた舞さん。
そんな舞さんだからこそ、これからも素敵な場所をつくっていくのだろうと思いました。

半年間のアメリカ、ヨーロッパの旅。
帰国した舞さんは、さらにパワーアップしているんだろうな。
「人が生きられる動機って、結局“人”でしかないと思うんです。
ソーシャルサロンは、人と人が出会うことで、感情が繋がって、関係性によって織り成される場だと思っています。
サロンのみんなに、私も何度も救われてきた。
法人を立ち上げたばかりで私はアメリカに行ってまうし、何してるんだって思われているかもしれない。でも、何かを得て帰ってきた時に、個としてそこに新しいものを生み出せたらいいなぁ…なんて、勝手に行く側としては思っています(笑)」
日常の中でもっと、
社会について語れる場を。
踏み込んで、より深く、自分と誰かの人生を愛せますように。