わたしたち
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「楓さんに紹介したい人がいるんです」
以前100夢に登場していただいた佐々木りつ子さんから、
そうメッセージをいただいたのは今年の1月。
かねてからのご友人で、両国で外国人向けの日本料理教室を開いている女性を紹介したいと連絡をくれました。
女性の名前は、大内奈穂子さん。
「とっても素敵な方なので、ぜひ楓さんが書く奈穂ちゃんを見てみたい」
そんな言葉をうけて、りつ子さん同席のもと、
はじめての“友達の友達”100夢をすることになりました。
今回のお花の選び方はいつもと変えて。
ご友人であるりつ子さんにも彼女のイメージカラーを聞いて一緒に選びました。
「彼女はとにかく“自然”な人。イメージは緑とか、自然の色…」
そんなりつ子さんの言葉を頭に、お花屋さんに向かうと、中心が緑色の葉野菜のようなラナンキュラス。私がイメージした奈穂子さんのカラーは黄色。
事前に見せていただいた写真がどれもハツラツとした笑顔で溢れていたから。
二人のイメージカラーがつまったラナンキュラスを手に、人見知りな私はこの日、
少し緊張しながら両国に向かいました。
都営大江戸線、両国駅から5分ほど歩いたところ、
お店の前で出迎えてくれた奈穂子さん。
「はじめまして。遠いところわざわざありがとう。りっちゃんも、久しぶり」
大きく澄んだ瞳が綺麗な奈穂子さん。
笑顔や朗らかな話し方から、優しい人だ、とホッとする。
入り口には“YOROKOBI kitchen”と書かれた大きな木の看板。
今日は奈穂子さんが経営しているこの店舗で取材をさせていただく。
ご挨拶をして、レトロな階段を上がると、ふわりと木の香り。
キッチン、机、棚、部屋に広がるどれもが木で彩られている。
すべて旦那様による手作りだそう。
木の家具の上には、奈穂子さんが集めた素敵な日本の雑貨。
思わず「かわいい」と声が出る。
はじめてきたのに懐かしい、ホッとする空間だ。
YOROKOBI kitchenは2016年オープン。
訪日外国人に向けて日本料理の教室を開催している。
コースには『OSUSHI』『DONBURI』、時期によっては梅仕事やぼた餅づくりなど、日本人の私にとってもきになるものが沢山。申し込みをすると、奈穂子さんがいるこのスタジオで貸切のレッスンを受けることができる。
奈穂子さんはなぜ、日本料理の教室を開催するようになったのか。
彼女のこれまでと現在の仕事について、お話を聞かせてもらった。
こどもの時から、絵本よりレシピ本を見るのが好きだったという奈穂子さん。
仲間と一緒に料理教室を開催したり、カフェ店員、フードコーディネーターと、
食に関わる仕事にずっと就いてきたそう。
同時に英語も好きだった。
大学在学中にはアメリカで国際交流のプログラムに参加したり、ホームステイの受け入れをしたりと活動的だ。
『YOROKOBI kichin』が生まれるまでにはいくつかの出来事があった。
ひとつは、フードコーディネーターとして働いていたときのこと。
撮ることを目的につくられた料理は、撮影が終わると役目を終えてしまうことも。
奈穂子さんの心は『料理をすること』から、『料理を通しての人とのコミュニケーション』へとかわっていく。
海外での生活経験も、奈穂子さんの考え方を変える大切な時間だった。
結婚した旦那様と一緒に、1年2ヶ月間オーストラリアで暮らした経験も。
その間もずっと現地のカフェやレストランで働いていた。
「 自分のもっていた常識って、一歩ちがう国に行くと通用しなくて。
海外生活をして、すごく気が楽になったの。
日本にいると、なんとなくみんな同じ感覚で通じ合っているように感じるけど、本当はみんな違うはず。小さなことから自分の視野を広げることで、気楽に物事を考えていけるなっていうのが自分の中ではありました。
それで、異文化交流って、人を理解する上で大事なんじゃないかなって思って」
「海外で生活をして、日本のことをもっと知りたいと思った。
日本食を紹介することで相手の文化を知ったり、逆に“自分たちの文化って素敵なんだ”って知ったりとか。
お互いに少し視野が広がって、心が軽くなる場所を提供できたらいいなって思って」
オーストラリアから帰国後、彼女はYOROKOBI kitchenを立ち上げる。
「私はとくに調理の学校に通っていたわけではないので、専門性がないという点では、コンプレックスを感じることもありました。でも、日本の家庭料理が海外でも注目される中で、いつも身近にあった日本食ならできるかもしれないって思って」
YOROKOBI kitchenのホームページを覗くと、参加者が割烹着を着て料理を楽しんでいる写真が。
笑顔から、朗らかな場の雰囲気が伝わってくる。
(画像提供 YOROKOBI kitchen)
「フラッとちょっとね、カフェでコーヒーを一杯飲んで、すっと心が軽くなったりするような感覚をここに来て味わってもらえるんだったら。
もちろん料理はするので新しい発見は用意したいけど、一番は“あぁなんか楽しかったな、今日”っていう気持ちになって帰ってもらえたらうれしいですね」
『和食っていいね』『カナダワインっておいしいなぁ、カナダってどんな国なんだろう』っていうような、気持ちの面で軽くなったりできる場にしたいですね。
その手段が自分は食だった。ただそれだけだったのかなって。」
もともと料理が好きで、英語も好き。
そんな『好き』の掛け算で生まれた、奈穂子さんの仕事。
奈穂子さんの生み出すYOROKOBI Kitchenは、彼女そのものだ。
「お互いの国を好きになることで、好きなことが増えるっていうのは、生きていて楽しいことがふえるっていうことだから。
日本人としては、日本食って美味しいね、日本人っていい人だねって思ってもらえることで、その人が日本にとっていい印象を抱いてくれたら、規模は小さいけど、国際交流とか社会貢献も少し担えることになるのかなって」
取材を終えてから、1階にあるコーヒー屋さんにお邪魔した。
お店の店主さんは奈穂子さんの旦那様のお知り合い。
二階の空きスペースを料理教室にどうか、と声をかけてくださったのがキッカケでYOROKOBI kitchen開店に繋がったといいます。
奈穂子さんと旦那様の縁で結ばれた、理想のような、素敵な働き方。
カウンターごしに店主さんと話しながら、
りつ子さんと奈穂子さんのオーストラリアの思い出を聞く。
「また行きたくなっちゃったなぁ、オーストラリア」
奈穂子さんと東京で出会ったりつ子さんが、二回目に彼女と再会したのはオーストラリア。
りつ子さんが口を開く。
「奈穂ちゃんはね、すごく優しいよね。旦那さんも似てる。
2人とも空気感が似てるっていうか。はじめて会った次には、奈穂ちゃんに会いにオーストラリアまで行っちゃったもんね、不思議」
「こっちもすんなり入れたのは、りっちゃんだからだよ。
意識が似てるんだろうね。言葉にしていいあったことはないけどね」
お2人の思い出話をききながら、私までたのしい気分になってくる。
話の中で、奈穂子さんはこんなことをいっていた。
仕事について、私が奈穂子さんに相談していた時の言葉だった。
「何かをしようとするとき、人はいろんなことをいうけど
それは意見じゃなくて『感想』だと思うの。
誰かがくれた言葉は『そうじゃなきゃいけない』じゃなく
『この人はそういう考えなんだな』って、考え方の一つとして受け止めるくらいでもいいんじゃないかな。誰だってその人にはなれないから。
その人が決めた決断を、私は応援したいと思う」
奈穂子さんは、柔らかくて強い。
たった数時間でも、奈穂子さんが生活する空間にふれて、両国が心地いいまちになっていく。
ここにくれば、何かと出逢える。
全くはじめての新しい文化との出会いかもしれないし、
奈穂子さんとの対話の中で気づく、自分自身との出会いかもしれない。
奈穂子さんに選んだラナンキュラス、「優しい心」の花言葉を贈ります。